センサーがヒルに反応するかどうか知らないけど、これで店内にいる限りは襲われないだろう。
 開店前のように誰もいない店内。ただ、人がいないことをのぞけば、デモの大画面テレビはついているし、ノートパソコンの電源も入っている。
「誰もいないのに、テーマソングだけ流れているのって怖いね……」
 桐谷さんがギュッと俺の制服を握る。
 怖い怖いといいつつ、桐谷さんは店のテーマソングに合わせて首を揺すっている。
「これで、突然電話が鳴ったりしたらもっと怖いな」
「明日見くん、ヘンなこといわないで!」
「二人とも、こっち来て手伝えヨー」
 バックヤードに行ってたエリナは、台車に携帯の在庫をめいっぱい乗せてきた。
「すごーい。電話がいっぱいだねー」
「これ、どうするんだ?」
「開通させるに決まってるだロ」
「俺は、そういうのはやったことない」
「じゃあ教えてやル」
 エリナはまるで携帯ショップでバイトでもしているかのように、慣れた手つきで端末の情報を登録していく。
「iPhone選びたい放題だね!」
 桐谷さんは、iPhoneをトランプのように重ねて持って広げたりシャッフルしたりとやりたい放題。

挿絵12

 自由すぎです、桐谷さん……。
「桐谷、開通した端末にこのアプリをどんどん入れてってくレ」
「あ、これテレビ電話できるやつでしょ?」
「それぞれ別のIDでサインアップして、グループに登録するんダ」
「なるほど、これで監視体制を敷こうってわけだな」
 エリナがセットアップしていたノートパソコンの画面には、桐谷さんがいじっている端末カメラからの映像がまとめて映し出されている。
「うん。凪の動きをこれでとらえるんダ」
「木檜さんって電気に詳しいんだね」
 桐谷さんは素直に関心しているけど、俺は騙されないぞ。
「あのさ。最初の話だと、これって魔法界のもめ事ってことだったよな?」
「――!」
 エリナの肩がビクッとなった。
「ちょっと前からおかしいなとは思ってたけど、ひょっとしてエリナって魔法使えないんじゃ……?」