以下。
 木檜エリナさん(16歳)による状況の説明――。
 まず、エリナのおうちは魔法使いの名家だそうですよ。つまり、エリナも自称魔法使いということ。
 そしてさっきの凪という子も、やっぱり魔法使いの家系なのだとか。まあ神職みたいな格好していたし、日本人っぽかったから、術者とかそういう言い方の方が合っているような気もするが。
 とにかく、世界にはそういう有名なおうちがいくつかあって、魔法業界での覇権を争っているのだそうです。
 で、今し方。その自称魔法使いのエリナと俺たちは、ライバルの凪って子の術にはまってしまい、日常空間から切り離された結界の中に閉じ込められたのでした。
 おしまい。

 あれ?
 俺のマフィア仮説とあんまり変わらないぞ。
「結局、エリナのせいじゃんか!」
「ワタシは逃げようとしたゾ! 明日見がのろのろしてるから、逃げ遅れたんだヨ!!」
「ってか、なんで逃げるんだよ? さっき、自分で業界の覇権を争っているっていったばっかりだろ」
 なんなの、この情けない魔法マフィアは?
 はなっから逃げる気満々だったのかよ。
「わ、ワタシは相手のフィールドでは戦わない主義なんダ」
「でも、凪って子を倒さないと出られないんだろ?」
「うん。まぁ、それしかないかナ……」

挿絵08改訂

 
 だんだんとエリナの声が小さくなっていく。
 ひょっとして、エリナは相当なチキンなのだろうか? それとも、凪って子がよほど強いのか。今思い出したけど、学校の野球場で初めて会ったときも、凪から逃げようとしていたしな。
「と、とにかく。凪もこの空間のどこかにいるはずなんダ。探すゾ」
 エリナはそういうと、俺たちから顔を背けて歩き始めた。
「ねえ、木檜さんって本当に魔法使えるのかな……?」
 制服の裾をちょんちょんっと引っ張って、桐谷さんがつぶやく。
「あの様子だと、どの程度なのかわからないな」
「おい。ぐずぐずするなヨ。またドローンに襲われても知らないゾ」
「おう。今いくよ」
 俺は桐谷さんと、エリナの後を追いかけた。