魔法ぽいの。(完結)

「エリナの魔法教室、始まるよ~!」 「始まりませんからッ!!」 というライトノベル。

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14 転校生が自称魔法使いでITに頼り切るって ~その3~

 エリナは音に対して回り込もうとする凪を巧みに誘導する。
「おい、こっちに向かっているけどそれは狙い通りなのか?」
「もちろんダ」
 どうやら直接対決するつもりのようだ。勝てるのか知らないけど。
「明日見、凪が交差点に入ったら最後にこの携帯を鳴らして向かいのガソリンスタンドに誘導してくレ」
 エリナは俺に番号を入れ終わった携帯を押しつけ、自分は店から出て行ってしまった。
「明日見くん、どうなるんだろうね?」
 若干心配そうな桐谷さん。
 俺だって心配だよ。いい加減かえらないと、夕飯の支度が間に合わない。
「あ、ねえそろそろじゃない?」
 桐谷さんが画面を指す。
 凪はちょうどガソリンスタンドのある交差点、つまりほぼこの店の前に到達していた。
「店の中でご対面はイヤだな」
 俺は携帯の発信ボタンを押す。
 えっ――。
 なんと、すぐ目の前の携帯が鳴っているよ!
 聞いてないぞ、こんな話。
 もし、今までとは逆に音の発信源を確かめに来たら……。そのときはエリナ抜きで凪とご対面だ。
 店の前で少し考えている凪。
 すぐ後ろで、桐谷さんが硬くなっているのがわかる。
 頼む、桐谷さん。今はボケないでくれ!
 俺の願いが通じたのか、凪は店内探索をすることはなく、横断歩道を渡りはじめた。
 そのとき――。
「マジカ……!?」
 ぷしゅーっ、というエアブレーキの音と大排気量のディーゼルエンジンの音。
 ガソリンスタンドから凪をめがけて、タンクローリーが突進してきた。
「ねえ、明日見くん! 運転席!!」
「エリナ、何やってるんだ!?」
 そう。
 タンクローリーの運転席には、エリナがすごくいい笑顔で乗っていた。
 ぱっぱーという、独特の警笛をならしつつ、凪をひき殺しにかかる。
 凪は逃げようとはせず、鈴を構えて何か呪文を唱えているようにもみえた。
 鈴で空を切り、何か唱える凪。それを警笛で妨害しつつひき殺そうとするエリナ。
 なんてひどい魔法戦争だ……。

   × × ×

「痛い、痛いゾ。もっと丁寧に!!」
「へいへい。桐谷さん、あとヨロシク」
「はーい」
 結界から無事に脱出できた俺たちは、こうして家に帰りついた。
 ま、エリナは火傷を負って治療中だけど。
「しかしまあ、よくそれだけのケガで済んだな」
 あのあと。
 凪が鈴を振ると、雷が落ちた。
 そりゃもう、狙い澄ましたようにタンクローリーに。
 車自体は雷など何ともない。むしろ車内にいるエリナは安全で、近くの凪の方が危険だろう。
 もっともそれは、エリナがタンクローリーからガソリンをばらまきつつ走ってこなければの話で。
 実際は、一面火の海となり、エリナも凪も命からがらで逃げてきたのだった。
「それじゃ、火傷したところみせて」
「……」
 俺は客間で横になっている少女に声をかける。
 そう。凪だ――。
「あの……。ありがとう」
「いえいえ。どういたしまして」
「お礼に、これからはエリナに代わって私が身の回りにお手伝いをいたします」
 凪さん、なんか三つ指ついているよ?
「いや、別にエリナはそういうことのために泊まっているんじゃないよ?」
「あああーっ!」
 すごい声がして、俺が振り返ると桐谷さんが叫びのポーズで立っていた。
「明日見くんが、今日知り合ったばかりの子にご奉仕させようとしているぅー!」
「すごく語弊があるな。そのいい方」
 そのようなわけで、ますます俺の周りは賑やかになっていきそうだ。


13 転校生が自称魔法使いでITに頼り切るって ~その2~

「あのさ。最初の話だと、これって魔法界のもめ事ってことだったよな?」
「――!」
 エリナの肩がビクッとなった。
「ちょっと前からおかしいなとは思ってたけど、ひょっとしてエリナって魔法使えないんじゃ……?」
「使えるヨッ! これだって、立派な魔法だヨ!!」
 エリナはiPhoneをぶんぶんと振り回して力説する。
「おなかがすいたら、ここに向かって呪文を詠唱すればピザが届くシ!」
「それ、電話で宅配ピザ注文するだけだろ?」
「それに疲れてきたら、ここに時間をセットして横になると……。ほら不思議、これがピコピコ鳴る頃には元気が回復するんダ」
「普通に目覚ましかけて寝てるだけジャン……」
「あとは、あとは――」
「……」
「……」
 なおも墓穴を掘ろうとしてるエリナに、俺と桐谷さんは生暖かい視線を送る。
 ぽん。
 桐谷さんが、エリナの肩に手を置く。
「木檜さん、魔法が使えなくても大丈夫だよ!」
「ああああーっ! なんかすごく悔しい気持ちになる顔だアー!」
 うむ。ほほえみって、時には人を傷つけるんだな。
「と、とにかく。これがワタシ流の戦い方なんだヨ!」
 エリナはレジ袋に大量のiPhoneを突っ込んで立ち上がった。
「さあ、行くゾ! ここから反撃ダ!!」
「威勢だけはいいんだよなぁ」
 俺は最初に、学校の校庭で轢かれたときのことを思い出してそういった。
 そういえば、あのときも箒じゃなくて自転車で移動してたっけ。攻撃だって、ピッチングマシーン使ってたしな。

「それじゃ、行くゾ!」
 三台の二輪に、俺たち三人がそれぞれまたがる。
 俺は、桐谷さんと二人乗りしてきたぼろい自転車。桐谷さんはエリナが乗ってたやつ。そしてエリナは売り場にあった電動スクーター。
 なんだよ。やっぱりエリナだけ楽なやつ乗るのな。
 店の外には、例の気持ち悪いのがまだいる。
 トイレで補充した、強烈な洗剤を構えるエリナ。
「俺は用意できた」
「わたしも……」
 三人で一度、大きくうなずきあう。
 エリナは電動スクーターで自動ドアに突っ込んで、洗剤攻撃を派手に仕掛けた。
「桐谷さん!」
「う、うん」
 何しろ相手は数が多い。また敵が集まってしまう前に離れないと。
 俺たちもエリナのあとを追って、コジマ電気を脱出した。

 養生テープを使って、エリナは交差点に次々と携帯を設置していく。
「要領いいんだな」
「当たり前ダ。ワタシは戦いのプロだからナ」
 もう、魔法のプロっていうのはやめたんだ……。
 そう突っ込むべきか考えてしまったけど、触らぬ神に祟りなしだ。
「んで、これで凪をみつけたとして、どうやって倒すつもりだ?」
「大丈夫。心配なイ。あそこのマクドナルドで休憩だから」
「おい!」
 結界の中を一巡りしたエリナは、ガソリンスタンドはす向かいのマクドナルドに入る。
「休んでいていいの?」
 桐谷さんも心配そうだ。
「なに言ってル! ここがゴールだゾ」
 エリナは電源の取れる席に座ると、先ほど設置してきた携帯に回線をつなぐ。
「ほら、丸見えだロ?」
「いや、みえればいいってもんじゃないから」
「みえているだけじゃないんダ。ほらたとえば、ここ――」
 エリナはひとつの画面を指さす。
 小さな映像には、巫女姿の凪が映っていた。
「さっそく発見だな。で、ここに出かけて殴ってくるのか?」
「いや。まあエリナ様の戦い方をみていなさイ!」
 エリナは自分の携帯電話を出すと、今凪を映している携帯に電話をかけた。
 画面の中で凪がビクッと肩をふるわす。
「なるほど、音を出すことはできるな」
 けれど、音では相手を倒すことはできない。
「次はこれダ」
 エリナは別の携帯を鳴らした。
 凪の様子からして、音が聞こえる範囲の携帯だろう。
「音に釣られるってのか?」
「いや、たぶんそれは読んでくるだろウ。だから、さらにその裏をかいタ」
 画面の中で凪は音に対してどのように対処するべきか考えているようだったが、やがて逆方向に歩き始めた。
「よしッ! 引っかかったゾ」

12 転校生が自称魔法使いでITに頼り切るって ~その1~

 センサーがヒルに反応するかどうか知らないけど、これで店内にいる限りは襲われないだろう。
 開店前のように誰もいない店内。ただ、人がいないことをのぞけば、デモの大画面テレビはついているし、ノートパソコンの電源も入っている。
「誰もいないのに、テーマソングだけ流れているのって怖いね……」
 桐谷さんがギュッと俺の制服を握る。
 怖い怖いといいつつ、桐谷さんは店のテーマソングに合わせて首を揺すっている。
「これで、突然電話が鳴ったりしたらもっと怖いな」
「明日見くん、ヘンなこといわないで!」
「二人とも、こっち来て手伝えヨー」
 バックヤードに行ってたエリナは、台車に携帯の在庫をめいっぱい乗せてきた。
「すごーい。電話がいっぱいだねー」
「これ、どうするんだ?」
「開通させるに決まってるだロ」
「俺は、そういうのはやったことない」
「じゃあ教えてやル」
 エリナはまるで携帯ショップでバイトでもしているかのように、慣れた手つきで端末の情報を登録していく。
「iPhone選びたい放題だね!」
 桐谷さんは、iPhoneをトランプのように重ねて持って広げたりシャッフルしたりとやりたい放題。

挿絵12

 自由すぎです、桐谷さん……。
「桐谷、開通した端末にこのアプリをどんどん入れてってくレ」
「あ、これテレビ電話できるやつでしょ?」
「それぞれ別のIDでサインアップして、グループに登録するんダ」
「なるほど、これで監視体制を敷こうってわけだな」
 エリナがセットアップしていたノートパソコンの画面には、桐谷さんがいじっている端末カメラからの映像がまとめて映し出されている。
「うん。凪の動きをこれでとらえるんダ」
「木檜さんって電気に詳しいんだね」
 桐谷さんは素直に関心しているけど、俺は騙されないぞ。
「あのさ。最初の話だと、これって魔法界のもめ事ってことだったよな?」
「――!」
 エリナの肩がビクッとなった。
「ちょっと前からおかしいなとは思ってたけど、ひょっとしてエリナって魔法使えないんじゃ……?」

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